日経サイエンス2016年9月号より雑談ネタです。
生徒に話すタイミングは、物理の一番最初「運動の表し方」の学習時です。
高校物理の最初の壁は「速度」「加速度」の違いに関してのイメージのわかないことであり、その補助にぴったりの話かと思います。
では導入から見ていきましょう。
1.自動運転ってどういうイメージ?
自動運転という言葉は最近よく耳にしますが、世間(生徒)ではどんなものをイメージしているでしょう。
「行き先を設定したらあとは寝ているだけで目的地に到着」というものを想像してしいる人が多いのではないでしょうか。
しかし、これは夢のまた夢、技術的に非常に難しいことなのです。
2.自動運転には6つの段階がある
自動運転は以下の6つの段階に分けられています。
レベル0 全て人が行う
レベル1 衝突防止ブレーキや、走行車線の維持を機械がサポート
レベル2 アクセル、ブレーキ、ハンドル操作を全て機械が行う。ただし状況判断が必要な時は人が運転する。(高速道路など、流れに大きな変化がない場面で、前の車を自動で追いかける追従型クルーズコントロールなどがこれに当たる)
レベル3 周囲の状況も機械が把握し、運転操作まで機械が行う。渋滞中の高速道路などで、アクセル、ブレーキ、ハンドルの操作を全て任せるようなイメージ。
レベル4 駐車や、レベル4の車限定の車線など、限られた環境下でのみだが、緊急時でも人の力を使わずに運転するもの。
レベル5 完全な自動化運転。人は車の制御を一切行わない。(人が最初にイメージしてしまうのはこれでしょう)
この中でレベル2まではすでに実現されて、市場に出回っています。ハンドルを手放して、緊急時に備えてブレーキだけ意識する、こんな車がもう出ていることに驚きです。
また、レベル3よりもレベル4の方が、状況が限定されているので、想定すべきシチュエーションが少なく、簡単なシステムのようです。それも面白いポイントですね。
さて、レベル2までは現実に実装されていますが、レベル3の実現には大きな壁があるようです。ここからが本題です。
3.レベル3の壁とは
レベル2とレベル3の間には、周囲の状況判断を機械に任せるかどうかという違いがあります。さて、状況判断というのは例えばどんな判断なのでしょう。
周囲の車、歩行者の有無、交差点での右折の判断、主だったところはこんなところ。そして、これらを正しく把握するには、車のいたるところにカメラを配置して、障害物と歩行者と対向車の判別を走行しながら行う必要があります。
《イメージ》
また、車の運転では、判断が0.1秒遅れると、重大な事故になってしまうことがしばしばあるでしょう。そしてパソコンをいじっていると、ちょっと調子が悪い時、0.1秒処理が遅いことなんてことはザラです。機械の自動運転は性能が現代のままだったら成立しないんじゃないでしょうか。怖い怖い。
さて、とても興味深い話がここで出てきます!!
このような情報を処理するシステムは、飛行機を制御するシステムよりも複雑であるようです。確かに空には障害物もないし、不意な歩行者もいないし、近い距離に対向車(対向飛行機?)もいません。
レベル3以上の自動運転をするには、素早い処理を安定して行えるシステムを作らないといけないんですね。従来のコンピュータでは、実現は難しいので、AIの技術が活きるのでは?と言われています。今後の発展に期待ですね。
4.高校物理の導入として
さて、逆の視点から見てみると、飛行機に搭載されたシステムよりも複雑で、0.1秒の遅れも許されない判断を、人間である我々は行なっていることになります。複数のカメラの代わりに眼と首の動き、鏡を使います。
そして、眼と鏡で得られる最初の情報は、対象物の「位置x」です。近い、遠いの判断をします。
しかし、位置だけでは安全確認はできずに、位置xの変化を分析して「速度v」の情報を得ます。一定時間でどれくらい対象物が移動したかを視て、対象物は速いのか遅いのかという判断をしてます。
さらにさらに、そこからもう1歩深い分析をします。「速い車だけどスピードダウンしている、これは止まろうとしてくれているな」、「黄色信号だけどスピードアップしてる!これは無理して突っ込んでくるな」という感じ。このスピードアップ、ダウンの情報が「加速度a」です。
速度と加速度の違いがわからん、という生徒は、「名前が似ているから」とか「単位が似ているから」とか形式的なことで混乱していることがほとんどです。そんな時は普段の生活の思考に結びつけてあげるのが有効です。
こんな風に、横断歩道を渡る時の状況判断で使っている情報を思い浮かべてみると、速度と加速度をきちんと区別できることに気づけるはずです。
まとめ
こんな話で物理の導入をしてはどうでしょうか。