【ICT×探究】現代特有の情報事情

教員が学生だった時代と、現代では、かなり情報のあり方が変わってきています。探究学習を進める上で、生徒には情報の扱い方をきちんと指導する必要があります。指導の際に役立ちそうな題材を紹介します。

日経サイエンス2019年04月号の記事からの紹介です。

1. 情報のタコツボ化

インターネットが普及し、すべての人が発信者になり、同時に受信者になる時代になりました。そしてフェイスブックやツイッターなどのSNSの発達は特にめまぐるしく、中学生、高校生にとっては最大の情報収集ツールになっているといっても過言ではありません。

しかし、SNSの特性として、自分が頻繁に閲覧する発信者や、それに似通った情報にアクセスしやすくなり、興味のない情報や不快になる情報は遠ざかっていきます。これを日経サイエンスでは『情報のタコツボ化』と呼んでいました。

2. 東日本大震災を例に

東日本大震災の後、福島をめぐる被曝リスクや、生活への影響について、科学者による情報発信がSNSを通じて拡散していきました。サイエンスでは、情報の発信者と受信者の相関図が掲載されていました。リツイートやリプライなどで、つながりのあったアカウントを結びつけ、集団化した図です。
下記に私の書いた簡略図を示します。似た意見の集団を色で分け、重なっている部分は、他集団の意見をリツイートしていることを示します。

中心となっているアカウントはhayano(物理学者の早野龍五氏)で、既存のマスメディア(紫)、著名ジャーナリストや企業人(青)、放射線汚染を強く懸念するNPOや、独立系ジャーナリスト(緑)を繋ぐ位置におり、それぞれ異なる関心を持つ層が広くリツイートしていました。

震災直後は、政府の発表や、科学者の主張に懐疑的で、放射能汚染はもっと大きいと予想する集団である緑グループにも、科学者の発信は届き、リツイートされていたのです。逆に地震はアメリカが起こしたものだ、というような陰謀論を繰り広げるアカウントは、緑集団の端に位置し、影響力は限定的だったことがわかります。

さまざまな立場の人が情報を共有し議論が進む、とても良い状態であったと言えます。

しかし、1年後の状況は激変しました。2011年3月の図は以下のようになります。

科学者の集団は議論の中心から大きく外れ、前年には近接していた著名ジャーナリストとも離れ、独立した集団になってしまいました。

代わって議論の中心となったのは「福島は放射性物質によって汚染されている」と考え「脱原発」を主張する懐疑派の集団(緑)、「政府や科学者は放射線による被害を隠している」と主張する極端な懐疑派(オレンジ)です。マスメディアの集団(紫)も科学者と同様に主流から分断されています。

科学者の集団は福島産農産物の放射性物質の量が十分に小さいことなどを発信し続けたが、1年間で懐疑派や、政治批判のクラスターとの接続は失われて、他の集団には届かなくなってしまったのです。

さらに翌年、2013年1月ではさらに傾向が強くなり、科学者の集団は完全に他の集団と切り離されてしまいました。

上記のように、懐疑派の集団に加えて反原発の集団が議論の中心になりました。
保守派の集団が、科学者集団の近くに位置していましたが、それは、反原発論者を攻撃するために科学者の言説を使っていたためのようです。

SNSを通じた情報拡散では、このように自分の考えを促進するような発信とのつながりが多くなり、情報のタコツボ化が起こります。

3. 探究活動での心構え

このような例を挙げれば、生徒の実感を伴って、普段触れている情報への危うさを伝えることができると私は思いました。その上で、次のような意識で探求活動に取り組んでほしいと伝えたいです。

 
・意識せずに流れ込んでくる情報は、自分の思考や、好みにより勝手に選別されてしまっている。多角的な視点を持つことが重要である。
・入手した情報にも、批判的な視点をもち、それが確かなものかを判断する能力をつけよう!!

インターネットから得られる情報に対して、昔から言われていることだと思いますが、SNSという題材を通して生徒に伝えることで、より実感を伴うはずです。

4. 生徒に伝える際は

今回紹介した題材の引用元であるサイエンスには、どのように指示を出せば上記の心構えを守れるかを別のコラムで書いていました。行動経済学分野での実験のようです。

その実験では『死刑制度が犯罪の抑止に役立つか』という議題に題して、様々な死刑に関する調査結果を与えた上で、死刑の是非を尋ねます。情報を与える際に、A、Bの2種類の声かけをします。

 A:『客観性を保ち、情報を公明正大に評価して、死刑に関する意思決定をすること』

このように声をかけると、最初から賛成のグループは賛成のまま、最初から反対のグループは反対のままの人が多くなりました。同じ情報を扱っていても、自分の意見を後押しするように、情報を読み込んでしまっていたようです。

 B:『自分に対してあまのじゃくになって、死刑に関する調査結果が自分の当初の見方と仮に矛盾していたらどう考え直すかを検討すること』
このように指示を出すと、当初の自分の考えに関係なく、情報を精査した上での意思決定をしたようです。

頭で理解していても、『客観的にみよう』という意識だけでは客観視ができないようです。

5. まとめ

探究学習では、必ず調べ学習のパートがあると思います。そして、調べ学習では次のようなことに気をつけたいです。

・日常的に触れている情報は、偏りがちになることを頭で理解する。
・自分の当初の意見と矛盾する情報を探させるように指示を出して生徒の動きを少しでもよくする。

以上、『ICT×探究』から気をつけたいことでした。引用元に興味がある方はサイエンスをぜひ!!オススメの雑誌です。

 


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