変形労働時間制は教職に適しているのか【第2回】

前回第1回は「変形労働時間制とは何か」「教員の労働時間のモデル」を記事にしました。

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[kanren postid="708"]今回はこれを踏まえて教育現場に導入するとどうなるのか、ということを考えていきます。

1 具体的なプラン

教員の勤務時間でもっとも一般的のは午前8時〜午後4時の8時間かと思います。
だいたい午後4時にHRが終わるので、放課後の会議が1つでもあれば全員が残業確定です。

部活も4時から始めるので、部活がある先生は残業になります。高3などを担当していたら質問対応などに終われ、生徒の下校時刻である6時とか7時まで残ることになります。

そこで変形労働時間制によって、勤務時間を午前8時から午後6時の10時間にします
すると放課後の会議も、部活も残業になりません。
そして、定期試験の日夏休みなどは朝8時から午後1時の5時間にしたりして月や年間の労働時間を法律内に収まるように設定する感じになります。

 補足
変形労働時間制には、月単位で時間をやりくりする「1ヶ月単位」と、月をまたいで時間をやりくりする「1年単位」があるのですが、夏休みを閑散期として他の月と時間のやりくりをするので教育現場では必ず「1年単位」になります。

1年単位の変形労働時間制で守らなきゃいけないポイントは以下のようなものです。

[box class="green_box" title="変形労働時間制のルール(抜粋)"]

・1日最大でも10時間
・年間で2085.7時間
・1週間あたりの労働は52 時間まで(月〜金10時間、土5時間とかはできない)
・連続勤務は原則6日まで[/box]

さて、これを踏まえて導入の障壁となる問題点を見てみましょう

2 問題点① 閑散期が少なすぎる

そもそも変形労働時間は、「繁忙期の際に労働時間を伸ばすもの」であって、通常の勤務時間を伸ばすもの」ではないのです。生徒が学校にいる時間を勤務時間とし、それを10時間にすると考えると、「繁忙期」と設定する日数が多すぎるのです。

一方で閑散期は夏休みしかありません。夏休みのみの閑散期で、日常の10時間勤務をまかなえるはずもなく「年間で2085.7時間」という規定を守れません。

私の相談した弁護士さんの話によると「変形労働時間制をまともに運用するには夏休みがもう1つ必要」とのことでした。教員の閑散期は少なすぎるのです

3 問題点② 所属により繁忙期が異なりすぎる

先生の所属により、繁忙期、閑散期の時期に差がありすぎるというのも教職の特徴です。パターンごとに例を挙げてみます。

3-1 夏休みの部活編

「夏休みを閑散期」とするのが基本ですが運動部、ないし活発な文化部に所属している先生は夏休みに結構な日数出勤するはずです。
もし夏休みをまるまる勤務時間0にしたら、「年間2085.7時間」は余裕で守れますが、夏休みの部活が全て時間外労働になります。
なので、午前中を勤務時間にして「部活は基本的に午前にやる」というルールにしたりします

3-2 定期試験の主要科目編

定期試験期間も閑散期に当てる部分になりがちです。試験1週間前は部活がなく、試験当日は昼から放課で午後部活もないからです。しかし主要科目の先生はそこが閑散期にはなりません。
試験1週間前は、生徒が質問にくる回数がドンと増えます。また、試験作り、手直しもここでやります。当日以降は採点が待っています。
もし、試験期間を閑散期としてお昼までを労働時間としたら、午後の採点は労働時間に含まれなくなってしまいます
さらに私立中学や高校だと、入試問題の制作というのも主要科目の先生にはのしかかります。

逆に主要科目以外の先生は行事の責任者に当てられがちですので、行事の前に忙しくなります。

3-3 宿泊行事の該当学年編

宿泊行事に関しては、学校全体で忙しくはならず、該当学年だけが忙しくなります。修学旅行はおそらく中3や高2で行くところが多いですが、その時期の中3高2に合わせて労働時間を設定することはできませ
他にも夏休み期間中や、冬休み、春休みの海外留学の引率などにあたる先生もいます。そういった先生の労働時間は他の先生と比べてとてつもなく多くなります。

3-4 ケアが必要な生徒を抱える担任編

かなり目に見えづらく、担任の性格次第で大きくブレる要素ではありますが、ケアが必要な生徒がいるクラスの担任は保護者連絡や面談などでかなりの時間、拘束されてしまいます。「親が夜7時まで帰ってきません」という家庭なら家庭連絡ができるのは夜7時です。

4 変形労働時間制のメリットは理事側にしかない

これらの問題点があることから、「いままで残業代もらってなかったし、今までと形だけが変わるだけなんじゃないか」と考えるのはやめたほうがいいでしょう。

具体的には今まで出勤していなかった時間に影響が出てきます。
[box class="pink_box" title=""]「夏休み部活がない日なのに出勤しないといけない」
「今まで4時に帰れていた日も6時まで帰れなくなった」[/box]これは相当な不利益ですよね。
また、生徒にも影響が出る可能性もあります。
[box class="pink_box" title=""]「今まで6時以降にしていた仕事が、残業になっちゃうからと言われて、6時前までにやらなきゃいけない仕事になった、生徒対応できなくなった」
「夏休み中に部活を午前にしか入れられなくなった、体育館のやりくりができず活動日数が減った」[/box]ということになりかねません。

第2回はここまでとして、次回は「いざ導入に向けて、どんなことに気をつけたいか」を考えて行きます。

↓第3回はこちら

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