大学入学共通テスト試行調査を題材に、共通テスト物理のポイントになる点と、対策法、勉強法をまとめていきたいと思います。
2021年入試(2020年度)入試から『センター試験』は『大学入学共通テスト』に名前が変わり、問題形式、出題傾向も変更されます。共通テストでは、知識技能だけでなく、思考力、表現力が必要となるとされています。
1.全体の平均点と分析
1-1分量
大問数は4、設問数は18。
センター試験は、
大問数6(選択問題があるので、解答数は5)、設問数は20です。
比較すると、問題は減っていますが、問題文が長くなっていたり、実験データの読み取り問題があったりと、1問にかかる時間は長くなっています。
差し引き、今のセンター試験と同じ分量と考えて良さそうです。
*慌てて解かなくても時間内に終わる、という感覚です。
1-2難易度
高3生の正答率をみても、明らかに難しくなっています。
共通テスト試行調査の平均点は38.54点
センター試験の平均点は60点前後
大学入試センターは試行調査よりも簡単にする、と言ってはいますが、センター試験と同程度の平均点にはならないと思いますので、平均点は50点弱くらい?になるのかなぁ、といった印象です。
1-3特徴
・選択問題が廃止となるので、原子分野が必答になる。
(→コロナによる影響で進度の遅れが予想されるので、今年度に限り選択問題扱いになるということもあるかも?と個人的には思っています。)
・そもそも、どんな物理現象が起きているかを、問題文から読み取 れるかを問う問題が増えている
・誤差を含むような実際の実験データの読み取りの問題がある
・物理現象の語句自体を答える問題がある(計算問題の割合が減少していると言える)
→語句の理解は今までの受験形態だと疎かにしがちなので要注意ですね。
・極端に難度の高い問題もある。
(大問1問3、大問2問5、大問4問4など)
→難関大学の2次試験ならば、試験として有効になりそうな問題でした。共通テストで出題することには疑問を感じます。問題自体は物理的な深い考察を伴うもので、素晴らしいと思いました。
2.第1問
さて、詳しい解説は、解説動画をあげたので、必要な箇所をみていただければと思います。
ただ、動画の解説は、必要な情報がどこにあるかわかりづらく、アクセスしづらいと思いますので、各問題での要点を文章でまとめます。
より詳しく見たいと思った問題があれば動画でみていただければと思います。
2-1力学的エネルギーの保存
正答率77.4%
単純な力学的エネルギーの問題。今までも、この形式での出題はありました。
特筆すべきことはないかなと思います。
2-2放物運動・力と運動の原理
正答率 空欄2…47.7 %
空欄2は、計算問題ではない形で、放物運動の特徴を正しく捉えられているか問う問題です。
水平に等速運動する乗り物から、一定時間ごとに物体を静かに切り離したら、どのような軌道になるか。
という問題です。水平方向の速度は常に一定であることから、解答は以下のようになります。
このような問題が共通テストでは増えていくと考えられます。
公式代入的な理解ではなく、公式の根拠を意識したり、数式に物理的な解釈を加えることが効果的な勉強になると思います。
空欄3…19.7 %
受験生の5人に4人は間違えている問題です。
問題の構成上、誤解を産む要因があったかなと感じました。
空欄2がなければ、正答率は35%くらいにはなったと思います。
(全体の中で筆者が二番目にもやもやした問題です。一番は第4問の最後の問題)
内容的には、等速運動の際の力のかかり方に関しての考察がメインで、
「進行方向には力がかかっている」と思い込んでしまう受験生が多いですが「加速する方向に力がかかっている」が正しい理解である、ということがテーマになっています。
確かに誤解しやすい部分です。さらに生徒自身がその勘違いに気づく機会は少ないので、教員がしつこいくらいアプローチする必要があります。
2-3気体の状態変化
空欄4…正答率26.4 %
これも正答率がかなり低いです。4人に3人間違えています。
この問題は
「mgh = ( )が成り立つ」
の空欄内を答える問題でした。
受験生は「〇〇を求めよ」など、何を出すかが明確な問題ばかりを解いてきているので、このように何を聞かれているのかはっきりしない問題には弱いです。
普段から、「問題を解くために必要な関係式は何かな?」ではなく「この物理現象で成り立つ関係式は何かな?」という意識を持っておくことが大切です。
空欄5、6…正答率6.6%
正答率だけみると、出題に問題があるように思えるような正答率です。
真空に向かって気体が移動しつつ、鉛直に設置されたピストンが降下すると、気体の状態はどう変化するか、という問題です。
受験生は
・空気が膨張している→温度は下がる?
・真空への膨張→自由膨張という例外的なパターンなので温度は変わらない?
・ピストンの動きは気体を圧縮しているのか膨張させているのか?
というように、いろいろな考えが出てしまい、迷ったのだと思います。
正しくは、
・真空への膨張なので、気体がする仕事は0であり、膨張による温度低下はない(自由膨張)
・ピストンは降下の際に、気体分子の速度を上昇させるので、温度は上がる(いつもの圧縮と同じ)
これを同時に起こしているので、温度は上がるというのが正しい解釈となります。
圧縮されるとなぜ温度が上がるのか、自由膨張だとなぜ温度が変わらないのか、など、公式の根拠に対しての理解があれば解ける問題です。
正答率は低いですが、こういう問題を解けるようになって欲しいなとも思います。良問です。受験生には差をつけるチャンスと考えて欲しいです。
2-4レンズ
正答率13.4%
これまた正答率が悲惨なことになっています。
レンズの作図の際に
①光軸に平行な光、②レンズの中心を通る光、③手前の焦点を通る光
を書く練習ばかりしているので、他の光線がないと考えている生徒が多いのですが、こういう認識だと、この問題は解けません。
通常の問題演習だけをしていたら、このような思考になるのは仕方がないので、教員がいかに生徒が勘違いしやすい場所を察知して指導してあげられるかにかかっています。
生徒の学習の仕方や意識では解決せず、指導者の責任になる問題だなと思いました。
「レンズを半分隠すと、像の形は変わらず、明るさが半分になる」ことと大きく関わっていますが、これは中学受験の時から「そういうもの」という暗記をしてしまっている人が多いです。
これを原理から理解させてあげるアプローチをしないといけません。
2-5水素原子のボーアモデル
正答率10%
これまた悲惨な正答率です。
試行調査の段階では高3生が原子の分野の勉強を終えていなかった、というのが要因かと思います。問題自体はすごく簡単な公式代入問題でした。
また、この問題は、数値を数学みたいな形式で答えるものでした。
有効数字2桁の書き方に慣れていない受験生もいるので、普段からこの表示をすることに慣れておく必要がありそうです。
また、原子が必答になりますが、このように小問での出題ならば、割合としてはすごく小さいかもしれません。
ただ、正解しやすい分野なのでちゃちゃっと学習してしまいましょう。
3.まとめ
第1問は悲惨な正答率の問題も多く、新たな勉強の指針を見出せるような問題が多かったように思えます。第2問以降の解説もアップしますので、よければご覧ください。