2019年東北大前期 物理入試分析 傾向と対策

2019年度東北大学 前期 物理の問題を分析します。

1.問題構成

大問1 力学 総合問題 《やや難》
大問2 電磁気 電磁誘導 《やや難》
大問3 熱力学 気体の状態変化 《難》

問題のダウンロードはこちらから(リンク切れとなりました)

2.かかった時間

かかった時間:75分

試験時間は、
2科目で150分
時間ギリギリで解き終わる数字ですが、本番で同じスピードでは解けないと思うので、時間配分に工夫が必要だと思います。

また、大問3の最後の問題だけ、計算が明らかに複雑だったので、そこで一旦タイマーでラップをとって、かかった時間を細かく分けてみました。

大問1 力学の総合問題 《やや難》 25分
大問2 電磁誘導 《やや難》 18分
大問3① 気体の状態変化/問2(d)まで 《難》 25分
大問3② 気体の状態変化/問2(e) 《難》 7分

本番の緊張感や、時間に追われる焦りの中では、最後の問題を冷静に解くのは難しいので、本番で解くのはかなり厳しいでしょう。

3.筆者の正答率と各問題のポイント

大問1 完答
大問2 完答
大問3 完答

自分でも驚きの完答!!私は勝手に東北大と相性がいいと思っています。

目新しい設定だらけでしたが、基礎的なことから、思考を問うものに段々とレベルアップしていく構成で非常に解きやすかったです。

大問1について

第1問は問1、問2の2部構成です。
問1は運動量とエネルギーの保存則問題、問2は慣性力(遠心力)を用いたつりあいと単振動の問題となっています。

問1最終問題(e)では、典型的な問題ではありますが、差が出そうだったので詳しく見てみたいと思います。

問題は、バネの縮みがd0の位置を速度v0で通過した質量2mの物体が通過した際、最もバネが縮む時の縮みd1を求めよという問題です。

(d)で重力による位置エネルギーの基準をバネの自然長の長さの地点に指定されていることと、(a)で求めたつりあいの式

より、力学的エネルギーを下図の状況で立式を行い、d1について解きます。

力学的エネルギー保存則より、

整理して

解の公式を用いて、

±の判断をするために、d1が、2dより大きいか、小さいかを判断する必要があります。

上図のように、書くことができ、バネが最も縮むのは、つりあいの点を越えたところなので、2d0よりも大きい縮みのときとわかります。

よって解答は、

となります。

ここまでが、とりあえずの解説ですが、私が解いたときの思考の流れも参考までに残します。

[box class="green_box" title="筆者の思考の流れ"]

思考① この問題では単振動としての問いはしてこないし、途中の問題で力学的エネルギーを聞いてきているので、いわゆる復元力による位置エネルギーの式を使わずに解かせたいんだな。

思考② ひとまず、その誘導に乗っかってやってみよう

思考③ うわ、2次関数になってたすき掛けができない、解の公式か?それとも間違っているのか?

思考④ うーん、解の公式で解いてもそんな綺麗な形では出なそうだ、胡散臭いから、復元力による位置エネルギーの形で解いてみよう。

[/box]

そして次のような式を立てました。

エネルギー保存の式をたてると、

xについて解いて

xはつりあいの点を越え、正の値となるので、

d1は、2d0+xとなるので、

このように解答を導きました。2次関数の解の公式を使わなかった分、自信を持って計算を進めることができました。

 補足
2次関数の解の公式を使う入試問題は多くはないですが、出たら誤りと考えるほど少ない物でもありません。計算力に自信があれば、最初の解答のように、解の公式で求めるのが王道だと思います。出題者の意図にもそっていると思います。

ただ、私のように計算に自信が持てない人は、復元力による位置エネルギーの考え方で解いた方が、計算が簡単になるので解きやすいでしょう。

単振動の問題を解くときにも復元力による位置エネルギーの考え方はできた方が何かと便利なので、演習としてこの問題を使うときに、生徒に紹介したい技術だとも思います。

大問2について

第2問は、きちんと問題文を整理できれば、磁場に侵入する正方形コイルの典型問題だとわかります。しかしきちんと読まないと混乱する恐れがある問題でした。

ここで問1(e)「一定の速さvではしごコイルを引くには外力をいくら加えれば良いか」という問題は2通りの方法で解くことができます。

①(電流が磁場から受ける力F)IBL  という公式

②(コイルで発生するジュール熱)=(減ってしまう力学的エネルギー)=(外力がするべき仕事) という関係

後者のエネルギー収支の考え方を受験生はないがしろのにしがちです。演習で扱う際は絶対に抑えておきたい別解です。

この考え方ができていれば、問2(c)最終問題「はしごコイルをブランコのように振動させたとき、時間経過でどのような運動をするか」というものを、答えられる生徒が増えるはずです。

選択肢を選ぶポイントは2つで
① 振動中心はどこか
② 減衰するかしないか
です。

①振動中心に関しては、最終問題にくる前に、違う条件でつりあいの位置を求めてい流ので、同様に考えて振動中心を考えることができるはずです。

 注意

(つりあいの位置)=(振動の中心)

という認識ができていないと、「ここまでの問題と同様に」という考えができません。この認識は教員側からしつこく呼びかけていかないと根付かないので振動の問題を扱う際に必ず声をかけたいです。

②減衰に関しては、「エネルギー収支」に関しての考え方があれば、外力なしで運動を維持することができないと判断できます。よって「外力なし=減衰する」と。エネルギー収支で働く力を1つ1つ分析して、迷走してしまう生徒が出てくると思います。

選択式でグラフを選ぶ問題は、東大が出題した年から国立大学でも少しずつ出題が増えてきました。0からグラフを書くよりも、概念の理解を問う要素が高い、脳に効く出題形式だと思いますので、普段から練習させていきたい問題です。

私も普段の授業で選択式のグラフ問題を出題していますので、興味ある方は、当HPの問題データベースから参照していただければと思います。

大問3について

第3問は受験生にとって、とても難しい問題になったと思います。大部分を落としてしまう人もいたかもしれません。その要因としては

真空の要素が出てくる。(自由膨張の要素が出てくる。)

② 問2で「真空+バネ」というセットから、圧力の関係を考えるのが難しい。

③ 最初のばねの長さが自然長でないことを忘れそう

という3点です。

③はただの不注意ですが、入試本番の最後の方の集中力ではミスもしがちになります。

さて、順に見ていきます。

① 真空の要素が出てくる。(自由膨張の要素が出てくる。)

普段はピストンにかかる力のつりあいから、圧力に関する式を1つ立てます。

しかし、「真空」がそれを阻みます。いつもは「外部の気体からの力」というものがあるのですが、今回は真空なのでそれがありません。外の気体の代わりにバネが押してくれているんだ、と考えられないとこの問題は全体的に厳しくなります。困った生徒も少なくないはず。

また、「自由膨張」なので、

「外に仕事をしない」→「内部エネルギーの変化分がバネのエネルギーとなる」

という風に考える必要がありますが、これにも受験生は慣れていないはずです。

「自由膨張の問題に慣れている」という生徒はあまりいないので、少なくとも「エネルギー収支に慣れている」、という状態までは引き上げておきたいです。

② 問2で「真空+バネ」というセットから、圧力の関係を考えるのが難しい。

普段は「自由に動くピストン」で遮られた2つの気体で圧力の関係を立てていて、「自由に動く」→「2つの気体の圧力は常に等しくなる」という思考をするように受験生の頭はできています。しかし今回は気体Aに接しているピストンと、気体Bに接しているピストンが別です。

ピストンが別なので、それぞれのピストンでつりあいの式を立てたいけれど、そうすると不明数が増えすぎる、と混乱を招きます。
しかし、バネがそれぞれに加える力は等しいので、気体Aと気体Bの圧力の大きさは常に等しい、と考えることができれば、両者の圧力はいつも等しい、と考えることができます。

見慣れない設定でも、落ち着いて考えることが求められる問題と言えます。

4.東北大前期まとめ

東北大前期を解き、文章にしてみると「エネルギー収支」という言葉がいっぱい出てきたように思えます。また、目新しい設定のものも多く、典型問題の解法を覚え込むような勉強をしていおる生徒を弾くような問題であると感じました。

東北大志望であるならば、基礎力をつけたのち、様々な別解で問題を深く見つめて、やや難しいレベルの問題でも練習しておくべきかと思います。


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